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鹿児島地方裁判所 昭和36年(ワ)118号 判決 1968年3月21日

原告 全逓信労働組合

被告 国 外一名

訴訟代理人 小林定人 外四名

主文

原告らの被告国に対する別紙目録(一)記載の労働協約が効力を有することの確認請求の部分に関する訴および被告鹿屋郵便局長に対する訴をいずれも却下する。

原告らの被告国に対するその余の請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立<省略>

第二、当事者間に争そいな事実<省略>

第三、争点<省略>

第四、証拠関係<省略>

第五、争点に対する当裁判所の判断

一、本案前の抗弁について

1  被告局長の当事者能力

被告局長は、国の一行政機関であつて独立の人格を有せず、行政事件訴訟において被告あるいは参加人となりうる場合は別として、本件訴訟のように労働協約の効力確認を求める通常の民事訴訟においては(当事者能力を有しないといわねばならない。また、被告局長は公労法第九条にいう「交渉委員」であるが、これをもつて本件訴訟における当事者能力があるとはいえない。なんとなれば、同条は公共企業体等または組合を代表して団体交渉ないし労働協約を締結する資格を認めた、いわば交渉手続に関して特別の定めをしたものに過ぎず、このことをもつて交渉委員に労働協約上の権利義務の主体としての資格を認めたものということはできないからである。

2  確認の利益

本件確認書による協約の効力確認の利益はないものと認められる。以下、その理由を述べる。

(本件確認書の作成に至るまでの経緯)

<証拠省略>によれば、次の事実が認められる。

昭和三五年は、電話サービスの改善をはかるため、公社がすすめている電信電話設備拡充の第二次五カ年計画の三年目にあたるが、この年に前記「電信電話設備の拡充のための暫定措置に関する法律」が制定されて、いわゆる電通合理化が急テンポで進められることになつた。そして第四次五カ年計画終了年度の昭和四七年には、特定郵便局における電信電話設備も、その九五パーセントが合理化によつて公社直轄の下に統合されることが予想され、当時、郵政省が公社から委託を受けて行なつている公衆電気通信業務(そのほとんどが特定郵便局で取り扱われる)に従事する郵政労働者(いわゆる委託要員)約四万八、〇〇〇名の身分の保障、労働条件の確保の問題が生じた。そこで原告全逓は、同年第一二回定期大会において、合理化に伴う委託業務の施設の改変については郵政省と全逓との協議成立をまつて行う、という事前協議協約の締結を主要な斗争目標の一つとすることを決定し、前記のとおりの要求書を郵政省に提出していわゆる事前協議協約の締結を求めた。更に、原告全逓は第二三回中央委員会において昭和三六年度春期斗争の主要目標の一つとして電通合理化反対、事前協議協約の獲得をあげ、右要求実現のための具体的斗争方針として、合理化に関する全国的な事前協議協約確認書獲得斗争を決定し、昭和三六年二月一八日原告全逓と郵政省との間に、電通合理化に関する事前協議協約が締結されるまでの間は、支部内関係局の電通合理化は一切行わない旨の確認書を獲得するよう地区本部および支部に対し指令した。中央本部から各地区本部に対しては、昭和三六年二月二五日以降集団動員交渉等をもつて右確認書獲得斗争に全力をかたむけるよう指令が出され、全逓九州地方本部斗争委員長からも、右中央委員会の決定に基づき、鹿児島地区本部宛に「当面の電通合理化反対斗争について」と題する書面が送付され、確認書の例文を添付して具体的な斗争の進め方を指示しており、これらを受けて地区本部から地区内各支部に対して指導がなされた。

ところで、原告支部内には、普通郵便局が鹿屋、垂水の二局、特定郵便局は三六局あり、そのうち一九局が集配、残りが無集配の郵便局であつて、特定郵便局のほとんどが電信電話業務を兼ねており、当時同支部組合員五二一名中一三〇名が右業務に従事していた。そして昭和三五年一二月電通合理化の一環として鹿屋の電報電話局が独立し、柳無集配郵便局の電話交換台が引き揚げられ鹿屋に統合されたために、右局員一名減という結果になつたこともあり、原告支部は電通合理化の問題を身近かなものとして把え、同全逓の前記決定を支持し、その運動方針の線にそつて、まず大隅支部内の比較的規模の大きな特定郵便局局長と昭和三六年三月三日頃から個別的な折衝をはじめた。しかし、同支部内は前記のとおり佐多、大泊地区間の一般即時化の問題をかかえていた。すなわち、昭和三五年度第二次合併町村における電話サービス改善対策の一環として、佐多、大泊地区間の市外通話を即時通話とすることになり、その実施について九州電気通信局と熊本郵政局との間で意見の一致をみ、そのため互地間に手動即時回線を一回線増設(計画時は二回線であつた)するための工事がなされ、昭和三六年三月一六日午前〇時を期して即時化が実施されるはこびとなつた。同支部は、これをいわゆる電通合理化の一環で、労働強化に通ずるものとしてこれを確認書獲得斗争の中にくみ入れ、前記事前協議協約の締結されるまでは新設された設備につき就労命令は出さない旨の確認を求めて佐多郵便局長と折衝を重ね、同年同月七日前記(第二の四)のとおり両者間に支部の要求を容れた合意ができた。また、原告支部は、強制配置転換、首切りを伴う合理化には反対だと主張し、前記個別的な折衝によつて大泊ほか五局の局長より原告全逓と郵政省の間に電通合理化に関する事前協議協約が締結されるまで電通合理化は一切しない旨の確認を文書または口頭で得、それらをもとに、同月一四日午後一時から鹿屋郵便局において、省側交渉委員代表局長である中村豊二ほか八名の交渉委員(他に集配局の局長を含む)と交渉に入つた。省側を代表する交渉委員の、交渉にのぞんでの基本的態度は、郵政省の指導もあつて、一致して合理化自体は管理運営事項であり、かつ局長の確認しうる権限外のことだとして極力確認書の記名捺印を拒んだ。しかし、同月一五日午後に及ぶ長時間の交渉の結果、省側の交渉委員は、一度無効を宣言した前記佐多郵便局長の確認事項をも含む原告支部の要求を、状況を確認するという意味で容れ、交渉委員代表局長中村豊二が原告支部交渉委員鹿屋清孝とともに記名押印して本件確認書が作成されたものである。右認定に反する<証拠省略>は、前掲各証拠に照らし信用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(本件確認書の内容)

本件確認書の内容は、二つに大別される。確認書第一項では、原告支部と局側交渉委員との間で「全逓と郵政省における電通合理化に関する事前協議協約が締結されるまでの間は」、電通合理化は一切行わない旨の確認がなされている。その確認事項に引き続いて昭和三六年三月七日以降同月一五日までの日付けで、大泊郵便局長ほか十数名の局長名が連記してあるが、前記確認書獲得の折衝の経過に照らすと、原告支部が特定郵便局のうち右各局を選んで各局毎に集団折衝をして、そこで事実上得られた確認をもとに正式の団体交渉にのぞんだものとみるべく、書面あるいは口頭でなされた確認を正式の団体交渉の場で再確認する意味で連記されているに過ぎない。そうだとすると、「電通合理化は一切行わない」旨の確認は、単に右連記されている局に限定されることなく大隅支部内すべての事業場を対象にしているとみることができ、その意味で同項は一般条項であるといえる。

これに対し同条第二項は、前記佐多、大泊地区間の一般即時化について、原告支部と佐多局長との間でとりかわされた確認事項がそのまま記載されている。その前段と後段(ここに「第一項」の協約とあるのは本件確認書の第一項を指すのではなく、記載の形式から「前段」を指すとみるべきである。)を読み合わせると、「全逓と郵政省との間に事前協議協約が締結されるまでは」組合側は三月一六日に予定された佐多、大泊局間の電通合理化(一般即時化)に反対し、増設された電話回線の使用は拒否する、これに対し、業務命令は出さないというものである。同項は、前記交渉の経過からして明らかなように、原告支部が目前に迫つた一般即時化の問題を合理化の一環として把え、その実施阻止の決意を表明し、第一項の一般的な禁止を具体化した特別条項であるといえる。

ところで、右にみたように本件確認書第一項、第二項ともいずれも「全逓と郵政省における電通合理化に関する事前協議協約が締結されるまで」といつて、その効力の存続につき附款が付されている。前記確認書作成に至るまでの経緯でみたとおり、原告支部の確認書獲得斗争も、電通合理化に伴う同支部組合員の身分の保障、有利な労働条件の確保という直接の利害から出発したことではあるが、その主要目標は原告全逓の要求する事前協議協約の締結であり、それを支援するためのものであつた。しかし、このことは本件確認書獲得の動機として意味をもつとしても、必ずしも本件確認書の内容の解釈を左右するものではない。すなわち、事前協議協約といつてもどのような内容のものとなるかは具体的な社会状況における労使の力関係によつて定まつてくるものであること、その力関係のもとで締結された協約は下部機関を拘束するものであること、そして本件確認書はまさしく右力関係において原告全逓の支援という暫定的性格のものであることなどからすれば、「事前協議協約が締結されるまで」とは、文字通り原告全逓の要求するとおりの事前協議協約を指すのではなくて、電通合理化に関する事前協議協約の問題が解決されるまでの意味であるとみるのが相当である。

(電通合理化に関する基本的了解)

<証拠省略>によれば、次の事実が認められる。すなわち

原告全逓は、前記要求書第一項のいわゆる事前協議協約の締結を基本的主張として郵政省と中央交渉を重ねたが、省側の壁は厚く昭和三六年四月一二、一三日および二五日と開かれた全逓第二四回中央委員会において、過去の斗争の経過と本部がとつてきた指導と情勢の分析についての再検討が加えられ、要求書第一項の問題については、「事前協議事項と労働条件の要求事項を区分し、当面労働条件の実現に重点をおく」との本部提案が再度の採決で決定され、以後右第一項を除いて交渉が進められた。その結果、同年六月一四日、電通合理化計画に関し、「(1) 郵政省は全逓に対し、電気通信施設改廃計画(これに伴う要員計画を含む。)の提示とその説明を行うものとする。(2) 郵政省は全逓から上記の計画について意見の申し入れを受けたときは、両者において意見の交換を行つたうえ公社との折衝に際し、十分しんしやくするものとする。なお、郵政省は、具体的実施計画中の要員措置計画については、公社との協議の過程において、当該計画の提示後一カ月間の間において全逓と協議(決定を含まない。-覚書)することとする」旨を確認し、これを電通合理化に関する基本的了解事項とした。その他電通合理化に伴う職員の身分の取扱いについての確認事項がとりかわされたり、「電通合理化に伴う配置転換等に関する協約」等が締結された(この点については当事者間に争いがない)。これによつて、原告全逓が要求書にかかげた第一項を除く他の事項については、その交渉審議の結果ほぼ文書化され、電通合理化に伴う労働条件の変更等につき原告全逓と郵政省との間に交渉ルールが設けられ、事前協議協約の問題はここに一応の結着をみた。

右認定を左右するに足りる証拠はない。

そうだとすると、原告らが主張する本件確認書による附款付の協約の効力は、その内容に更に立ち入つて審究するまでもなく、すでに失効しているとみるのが相当であり、原告らの、右協約の効力の確認を求める請求は、確認の利益を欠く不適法なものといわねばならない。

二  本案(損害賠償の請求)について、

1  本件確認書による協約の意味

第一項は、全逓と郵政省における電通合理化に関する事前協議協約が締結されるまでの間は「電通合理化は一切行わない」となつている。ここに電通合理化は「一切」行わないとは、文字通りには合理化に関する計画立案、協議、決定、物的設備、人員配置、事業実施等すべての段階の行為を行わないことの意味にとれる。そうして、前記のとおり、原告支部が本件確認書をうるまでの交渉の過程で、原告支部が強制配置転換、首切りなど労働条件の変更をきたさないような合理化はありえない、だから電通合理化には反対であると主張していること、本件確認書獲得の目的が、原告全逓の事前協議協約の締結を支持することにあつたことを考え合わせると、本項の規定を、原告らが主張するように、単に人員配置、職場転換、その他労働条件の変更はしないことのみをうたつたものとみることはできない。現に、<証拠省略>によれば、原告全逓は下部機関に対し昭和三六年二月一八日付で、「電通合理化反対、事前協議協約獲得の斗いの方針に関する第二三回中央委員会決定事項の補足について」と題する文書を出し、そのうち「工事段階における切替阻止の斗い」の項において、(イ)確認書がとられていない場合でも、労働条件についての保障のない限り切替えは行わせないという態度で、工事を延期あるいは中止させるための団体交渉を行い、公社職員であつても工事請負人であつても、切替工事は行わないよう充分説得をし、場合によつてはピケで排除する。(ロ)確認書がとられている場合は、局長に対して協約の履行を迫るための団体交渉を行い、事前の協議が整うまで工事の延期または中止をするよう、所属の通信部、通信局あるいは郵政局に対して上申させると共に、切替準備のために入局するものに対しては、団体交渉中である旨の説明をして、工事を行わないよう説得することなど、斗争の指針を与えていることが認められる。このことからすれば、原告支部は本件確認書をもつて前記物的設備以下の実行段階における合理化計画実施の阻止を図つたものとみられ、それだからこそ省側を代表する交渉委員がこの物的設備の改廃につき、いわゆる管理運営事項であることを強調したものといえる。以上、要するに本件確認書第一項は、附款付きで被告国側の電通合理化計画の実施、すなわち物的設備の改廃、人員配置、組合員に対する業務命令(就労命令)などを禁止し、国の不作為義務を規定したものとみることができる。

第二項については、その前段と後段とを読み合わすべきものであることについては前記のとおりであり、佐多大泊地区間の一般即時化による増設された電話回線の使用について、第一項の被告国の不作為義務を具体化したものとみるべきである。

2  公労法第八条但書の解釈

公労法第八条但書は、「公共企業体等の管理及び運営に関する事項は、団体交渉の対象にできない」と定めている。しかし、元来、労働条件そのものと管理運営事項とを峻別することは困難であり、管理運営事項も多くは労働条件の問題と表裏する関係にある。従つて一般的な表現をすれば、公共企業体等においても組合は、賃金、労働時間等の労働条件に関するもの(決して管理運営事項と無関係ではない)に限らず、生産その他事業計画などの管理運営に関する事項であつても、それが労働条件に関連をもつ事項であるかぎり、その面から団体交渉の対象となしうるものといわねばならない。もつとも本来、団体交渉は労使の対立を前提とし有利な労働条件を得るための手段であり、立法論はともかく、公労法上いわゆる経営参加は制度としては認められていないのであるが物的設備の改廃等労働条件の変更を当然伴う事項、ことに組合の側からみて労働力の提供が、ある一定の枠でしか容れられなくなるような事態に至る事項については労働条件の面から見てもいきおいこれを団体交渉の対象として論及せざるを得ないし、この意味では、管理運営事項であるからといつて、直ちに団体交渉の対象とならないとまではいえない。

3  本件確認書による労働協約

電通合理化計画の立案(決定)から実施までの過程における、郵政省と公社の関係について検討すると、<証拠省略>によれば、次の事実が認められる。郵政省と公社間の、公衆電気通信業務の委託に関する基本協定において、委託業務の運営に要する電気通信機械及び線路の建設および保守は、公社において直接これを計画し、及び実施するものと定められている(第四条)。しかし、右決定は公社の一方的なもめではなく、右基本協定の運用に関する細目協定から、電通合理化に関係ある部分をみると、電話の交換業務の開始または廃止、電話の加入区域の合併、電信の通信方式および電話交換方式の変更、委託業務を公社の直営業務に改定することなど、電気通信施設の改廃計画については、公社は郵政省の希望意見を十分しん酌して決定し、その実施については、事前に郵政省と協議するものとされている(第三条)。そして、このように計画と実施につき区別を設けたのは、計画における公社の主体性を認めつつ、実施段階における郵政省側の要員、経費、施設の変更等の措置を必要とする関係からである。

電通合理化計画の立案、実施における郵政省の権限が右のとおりであるとすれば、公労法第八条但書を前記のとおり解釈する限り、右合理化計画の立案、実施の過程において、組合がその身分の保障、有利な労働条件の確保を求めて右計画立案、実施の事項について郵政省と団体交渉をもつことは何ら差支えないといわねばならない。

4  しかしながらそうだからといつて、組合が郵政省との間において右団体交渉事項とされる事項につき、どのような内容の労働協約を締結しても、公労法第八条但書に違反しないとまでいえないことは当然である。すなわち右協約を締結した省側交渉委員がその内容に即応した権限を有することを必要とするのはもちろん、その内容も具体的事案における諸般の事情に照らして、管理運営事項に関する郵政省の権限を不当に制限しない範囲内にとどまることを必要とすると解すべきである。そこで次に本件協約につき、省側交渉委員代表局長がその内容に即応した権限を有していたか否かの点についてまず判断する。

(イ) <証拠省略>によれば、原告支部は、原告全逓、郵政省間の「団体交渉の方式および手続に関する協約」による支部交渉において原告全逓の交渉当事者として定められているが、前記第二の一の1および2の事実および<証拠省略>によれば、原告支部は独自の規約を有し、独自の決議機関、執行機関を設けており、会計も一応独立であることが認められ、このことからすれば、原告支部は、その目的、構成からいつて単一組合たる原告全逓の統制を受ける下部機関であると同時に、それとは一応別個独立の労働組合であるとみるべきである。そうだとすると、原告支部は、組織に特有の事項についてのみならず、本来単一組合に共通の問題を自らの組織内の事項に限定してこれを団体交渉の対象事項となしうるというべきである。その場合、右支部に対応する省側交渉委員代表局長は、自らの職制上の権限外の事項であつても、組合の要求を上部機関に伝達するなどの途があるのであるから、権限外の事項であることを理由として団体交渉を拒むことはできないというべきである。しかし、だからといつて右代表局長が自己の職務上の権限を越えた事項についてまで労働協約締結権があるとみることはできない。特別の授権のある場合を除き、かかる場合の協約は無権限の行為として無効である。

(ロ) 郵政局が、地方郵政局の事務のうち、現業事務を地方郵政局長の事務のうち、現業事務を地方郵政局長の監督のもとにおいて行う(設置法第一二条第三項、郵政省組織規定第一六条第二項)ものであることは、前記のとおりである。電通合理化に伴う電気通信施設の改廃計画、実施についての郵政省と公社との関係は、先にみたとおり、計画の段階では公社は郵政省の希望意見を十分しん酌して決定し、その実施に当つては、両者間で協議決定することになつており、また、その具体的な打合せ協議は<証拠省略>によれば地方段階(郵政局、電気通信局)までであり、現業、事務を行う郵便局には右計画、実施の決定につき参画しうる権限は認められていない。

(ハ) 本件佐多、大泊地区間の一般即時化についてみると<証拠省略>によれば、昭和三五年五月二四日九州電気通信局長は、昭和三五年度第二次合併町村における電話サービス改善対策の実施につき、電通合理化の一環として、右区間の一般即時化の実施計画を策定し、熊本郵政局に通報し、これを受けた同郵政局郵務部長は、同年七月二七日、右一般即時化の実施予定を佐多、大泊両郵便局長に通知し、ついで同年九月一三日、その具体的計画内容と実施後の取扱につき留意事項を通達し、同年一一月八日、熊本郵政局と九州電気通信局において右実施の合意ができ、熊本郵政局郵務部長から佐多郵便局長に、一般即時化が本決りになつた旨を通知したことを認めることができる。そして、熊本郵政局と九州電気通信局との間で、右即時化は昭和三六年三月一六日をもつて実施する旨の合意に達したことは先にみたとおりであり、右実施の日取りが佐多郵便局長に通達されたことも<証拠省略>により認めることができる。

このように、佐多、大泊地区間の一般即時化の計画、実施については、その具体的な実施の日取りに至るまで熊本郵政局および九州電気通信局の協議事項であり、現業事務を行う郵便局としては、単に設備機械を作動させて電話の交換作業を行いうるのみである。

もつとも<証拠省略>によれば、郵便局長は、所属の各職員につき、その勤務する種類、勤務時間、週休日等を具体的に定める権限を有していることが認められる。しかし、郵便局長にこのような業務命令権があるからといつて、本件のように合理化の一環として実施される前記一般即時化につき、これを延期するなどの裁量権があるものということはできない。

(ニ) 以上、(ロ)および(ハ)で郵便局長の権限を検討したところによると、本件確認書による協約は、その第一項が郵便局長の権限外の事項を定めていること、第二項が郵便局長の権限外の事項を定めていること、第二項が郵便局長の業務命令権の不行使(不作為)を確約し、一般即時化の実施の延期を認めていることの理由により、公労法上の労働契約としての保護を受けられない無効なものといわざるを得ない。

5  そうすると、原告らの本件確認書による協約の不当破棄ないし、権利侵害を理由とする損害賠償の請求は、その損害の発生および額について検討するまでもなく失当というべきである。

三  結論

以上、原告らの被告局長に対する本件確認書による協約の効力確認の請求は、当事者能力を欠く者を被告とした不適法なものであり、被告国に対する右確認を求める部分の訴は確認の利益を欠く不適法なものであるからいずれも右訴を却下することとし、原告らの被告国に対する損害賠償の請求は、その理由がなく、失当としてこれを棄却することとする。

よつて、訴訟費用の負担については、民事訴訟法第八九条、第九三条第一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 松本敏男 藤田耕三 松本昭彦)

目録(一)

確認書

昭和三六年三月一五日省側交渉委員と全逓大隅支部との団体交渉において電通合理化問題に関し左記の一致を見たことを確認する。

一、全逓信労働組合と郵政省における電通合理化に関する事前協議協約が締結されるまでの間は電通合理化は一切行わない。

昭和三六年三月七日  大泊局長   土持厚志

昭和三六年三月八日  大根占局長  山元左源

昭和三六年三月九日  古江局長   鎌田幸平

昭和三六年三月一〇日 吾平局長   徳丸春光

昭和三六年三月一〇日 高須局長   田辺英治

昭和三六年三月一三日 高山局長   三善三男

昭和三六年三月一五日 牛根局長   隈元一男

同      高隈局長   湯地定幹

同      岸良局長   吉井和英

同      新城局長   中村清登

同      内之浦局長  田中親人

同      大隅垂水局長 枦山亮和

二、三月一六日に予定された当局と大泊局間の電通合理化(一般即時化)については郵政省と全逓信労働組合との間に事前協議協約が成立するまでは反対する。

以上の主旨を三月八日までに熊本郵政局長に対して打電する。

第一項の協約成立まで組合側は増設された電話回線の使用は拒否するがこれに対し業務命令は出さない。

昭和三六年三月七日 佐多局長 毛利為一

昭和三六年三月一五日

省側交渉委員代表局長

鹿屋郵便局長 中村豊二

全逓信労働組合

大隅支部長  鹿屋清孝

目録(二) 損害額一覧表<省略>

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